北海道自然史研究会

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2012年度


今年度の大会の予定です。

2012年度研究会(大会)のお知らせ

2013年2月3日に北海道大学にて開催しました。⇒無事終了しました

北海道自然史研究会2012年度大会

日時:
2013年2月3日(日) 9時~17時半
場所:
北海道大学総合博物館 知の交流コーナー

大会幹事:
大原、持田、小宮山、事務局

大会プログラム・要旨集 ⇒ こちら
総会(2012年度)配布資料 ⇒ こちら

・総会と北海道の自然に関する懇談会を午後に行ないます。
・懇親会は前日2日の夜に札幌市内で予定しています。
 また、後述の講座のある4日夜にも講師の三橋さん参加で懇親会を考えています。
・参加申込方法:メール等で研究会事務局(n-h@cho.co.jp)へ。
 所属・メールアドレス・懇親会参加の有無をお知らせください

大会参加費:
資料代等で500円を予定

懇親会について:
・日時 2013年2月2日(土) 18時~
・場所 「天然居酒屋ふうり」(http://www.hotpepper.jp/strJ000650552/)
 札幌市北区北6条西4丁目 札幌パセオ西側1F
・会費 3500円

スケジュール(予定)
8:30~ (会場準備、開場)

9:00~12:00 研究発表会第一部 会長挨拶

12:00~13:00 昼休み

13:00~15:30 自然史研究会総会、参加者一言発表会

15:30~17:10 研究発表会第二部

17:15 閉会

研究会主催の講座「プラスティネーション標本作成研修会」

 11月に琵琶湖博物館で西日本自然史系博物館ネットワークによるプラスティネーション標本の講座が開かれました。北海道でもこの講座を!ということで、講師の兵庫県立人と自然の博物館の三橋さんにお願いして、大会に合わせて講座を開くことになりました。
 プラスティネーション標本は、シリコン樹脂を組織に染み込ませた標本で、保存性が高く手にとっての観察もできるため、展示や観察会への活用が期待できます。しかし、手法を試すチャンスはなかなかないと思われますので、この機会に挑戦していただければと思います。


日時:
2013年2月4日(月) 13:00 - 17:30(予定)
会場:
北海道大学総合博物館実験室
主催:
北海道自然史研究会
共催:
JST科学ネットワーク地域型「CISEネットワーク」
協力:
NPO法人西日本自然史系博物館ネットワーク
講師:
兵庫県立人と自然の博物館 三橋弘宗・主任研究員
定員:
20名程度
(申し込み多数の場合は会員優先、施設ごとの人数や申込み順で調整します)
参加費:
2000円(材料費として)
参加申し込み:
1/25まで

参考・琵琶湖博物館での研修会
http://www.naturemuseum.net/blog/2012/11/post_42.html

関連行事

 大会前日の2月2日(土)には、会場周辺で関連行事がありますので、サテライト企画として研究会で共催等しています。この機会にこれらの行事にもご参加ください。

○「バイオミメティクス市民セミナー」
 北海道大学総合博物館 13:30~15:30
 http://www.museum.hokudai.ac.jp/event/article/123/

 ネイチャー・テクノロジーと持続可能性社会 石田秀輝(東北大学環境科学研究科教授)

○「海の生きもの講座 ~海中から浜辺まで 映像と標本でみる~」
 札幌エルプラザ3F環境研究室 14:00~16:30
 http://www.city.ishikari.hokkaido.jp/kaihinsyokubutu/newpage-umibehuukei2012-2.htm

 石狩湾の生物多様性
  ・・・ダイビングショップ ゼムハウス代表 藤田 尚夫
 自然教室を通じた磯の生きもの観察
  ・・・旭川大学地域研究所特別研究員 斎藤 和範
 漂着物から見た石狩湾の生きもの
  ・・・コメンテーター・いしかり砂丘の風資料館学芸員 志賀健司

発表一覧


午前 9:00~12:00
志賀健司
石狩浜でタコブネ発見-最北の漂着記録-

栗原憲一ほか
北海道十勝郡浦幌町に分布する根室層群川流布層中から産出したアンモナイト類と白亜紀/古第三紀境界の大量絶滅(予察)

堀 繁久ほか
アライグマによるエゾサンショウウオとエゾアカガエルの捕食

相澤あゆみほか
洞爺湖における特定外来生物ウチダザリガニの効果的な防除体制の設立を目指して

斎藤和範ほか
旭川市近郊でみられる国内外来種アズマヒキガエルの分布状況と防除活動の取り組み

小宮山英重
滝を遡上するアメマスの生態

川辺百樹
ジョウビタキの日本列島への進出

午後 15:30~17:10
大原昌宏ほか
札幌圏における実物教育ネットワークの展開 ~CISE ネットワークについて~

植木玲一
ヒグマを教材とした教育実践 ~日本クマネットワーク北海道地区の事例など~

三橋弘宗(兵庫県立人と自然の博物館)・佐久間大輔(大阪市立自然史博物館)
NPO法人西日本自然史系博物館ネットワークの活動について

要 旨

石狩浜でタコブネ発見 -最北の漂着記録-

志賀健司 (いしかり砂丘の風資料館)

 ココヤシ果実やアオイガイ殻など、熱帯~温帯海域、もしくはその海岸に生息する生物等が暖流によって高緯度地域に運ばれ、海岸に漂着することがある。石狩湾は日本海を北上する対馬暖流の影響下にあるため、それら「暖流系漂着物」が時折確認される。特に2005年~2007年、2010年には数多くの暖流系漂着物が湾奥の石狩浜で確認されている(志賀・伊藤、2011など)。そして2012年秋、石狩浜および周辺の砂浜において初めて、タコブネArgonauta hians殻の漂着が確認された。
 タコブネはカイダコ科の浮遊性のタコで、世界中の熱帯~温帯の海洋表層に生息する。メスは産卵・孵化のために殻を作り、自身もその内側に入って生活する。殻は飴色をした薄い石灰質で、殻長は大きいもので8~9cmに達する。
 タコブネと同属で、やはり熱帯-温帯の海に生息するアオイガイArgonauta argoは、本州・九州の日本海側の海岸でしばしば大量漂着が見られ、年によっては北海道の日本海側でも大量に漂着することがある(鈴木、2006;志賀、2007など)。それに対してタコブネは、本州でも大量に漂着することはなく(林、2009)、北海道で発見されることは極めて稀である。著者の知る限り、過去に道南(渡島地方~後志地方)の日本海側で漂着が2例、日高地方沖での生体の捕獲が1例(1989年10月、殻長81mm)知られている(徳山ほか、1990)のみである。その中で最北(※対馬暖流の最下流側という意味であり必ずしも緯度で最北ではない)となるのは、2010年10月7日に小樽市塩谷で漂着が発見された個体(殻長34mm)であった(山本亜生、私信)。
 2012年秋、石狩浜周辺で発見されたタコブネは、次の4例である。(1)10月25日:望来海岸(殻長不明)、(2)10月29日:小樽大浜(殻長45mm)、(3)11月8日:石狩浜(殻長79mm)、(4)11月10日:石狩浜(殻長50mm)。今回の漂着は、日本列島におけるタコブネ漂着の最北の記録であろう。同年秋の石狩浜では、タコブネ以外にも、ココヤシ果実やギンカクラゲなど、例年はほとんど見られない暖流系漂着物が多数発見された。アオイガイもこれまで最多の漂着数であった2010年に匹敵する規模の大量漂着が見られた。これらの現象の直接の原因は、日本海北部の海面水温の異常な上昇にあると考えられる。

引用文献
林重雄,2009.福井県北部沿岸におけるタコブネ(カイダコ科)の漂着.漂着物学会誌7:1-4.
志賀健司,2007.北海道石狩湾岸におけるアオイガイの大量漂着.漂着物学会誌5:39-44.
志賀健司・伊藤静孝,2011.2005年~2009年の石狩湾沿岸におけるアオイガイ漂着.いしかり砂丘の風資料館紀要1:13-19.
鈴木明彦,2006.北海道石狩浜へのアオイガイの漂着.ちりぼたん37:17-20.
徳山秀雄・本田義啓・林浩之・吉田英雄,1990.日高沖の海上から得られた貝殻に入ったタコについて.釧路水試だより63:16-17.


北海道十勝郡浦幌町に分布する根室層群川活平層中から産出したアンモナイト類と白亜紀/古第三紀境界の大量絶滅(予察)

栗原憲一(三笠市立博物館)・工藤直樹(早稲田大学)・平野弘道(早稲田大学)・
佐藤芳雄(浦幌町立博物館)・澤村 寛(足寄動物化石博物館)

 約6600万年前の白亜紀/古第三紀境界(以下、K/Pg境界)は、白亜紀最大の絶滅事変が起こった時期である。顕生累代の5大大量絶滅の1つとして認識され、絶滅は恐竜(鳥類を除く)やアンモナイト類など様々な生物群に及んだ。主な原因としては、直径十kmにもおよぶ巨大な隕石が地球表層に衝突したことによる急激な環境変動が挙げられている。
 本邦では、北海道十勝郡浦幌町に分布する根室層群活平層中に、国内唯一のK/Pg境界を含む地層が連続的に分布している事が知られている。これまで、微化石(有孔虫類、渦鞭毛藻類、花粉・胞子類)によるK/Pg境界前後の群集変化の研究や化学分析による研究が行われており、K/Pg境界における生物相の変化と巨大隕石衝突後の大規模森林火災を示唆する熱的環境異変の存在が示されている。
 昨年(2012年)8月、本地域のK/Pg境界直下の地層からアンモナイト類が産出した(図1)。本地域ではこれまでアンモナイト類の産出報告はなく、現状、絶滅前の最後のアンモナイト類であり、北海道を始めとする北西太平洋地域では、どのようなアンモナイト類が絶滅直前まで生息していたのかを知る貴重な資料であると言える。
 そこで本発表では、今回発見されたアンモナイト類に関する産出報告とその意義について予察的な議論を行う。さらに、本地域のK/Pg境界前後における炭素安定同位体比の変動に関する研究も併せて行っているため、その報告も行う。
 なお、今回のアンモナイト類が発見されたいきさつは、浦幌町立博物館が実施した6600万年前の地層を観察する講座で“偶然”発見されたものである。町立博物館では、6600万年前の地層が浦幌町にしか知られていないことを町の宝として考え、毎年、子供たちや町民を対象に現地観察会を開催し、その意義を伝えている。継続的にそれが行われていなければ、間違いなく今回の“偶然”の発見はなかっただろう。貴重な標本を発見する確率は誰にとっても同じで非常に低いが、何度も足を運べばそれだけ発見されるチャンスが増えるからである。まさに、“偶然”を“必然”の発見とした出来事であり、地道な継続活動こそが自然史を探求する上で重要である事を改めて実感した。


アライグマによるエゾサンショウウオとエゾアカガエルの捕食

堀 繁久(北海道開拓記念館)・植木玲一(札幌啓成高校)・
札幌啓成高校科学部フィールド班

 2000年春に、野幌森林公園内の小河川の砂防堰堤下のエゾサンショウウオ産卵場所で、産卵に集まったエゾサンショウウオの動物による被食痕が見つかった(堀・水島、2002)。砂防堰堤の下に、25本もの食い残されていたエゾサンショウウオの尾部が見つかり、そのうち4本の尾については、動いてた。現場に残された足跡やツメ跡などの状況証拠から、この被食痕はアライグマによるものと推測して、アライグマによるエゾサンショウウオ被食痕として記録を残した。しかし、実際の捕食現場の確認が課題として残されたままだった。
 2009年春に野幌森林公園の中央線沿いの遊歩道脇の落ち葉の堆積した水たまりで水生昆虫調査中に、除けた落ち葉の下から時間経過したエゾサンショウウオ尾部が3個体分発見された。この尾部のみを残す捕食はかなり広範囲で行われており、落ち葉が多い場所ではその食害残渣が落ち葉の下に沈み込み、埋もれてしまうために陸から観察しても見えないことが判明した。
 一方、2012年春、野幌自然ふれあい交流館前の雨水調整池でエゾアカガエルの産卵の観察会の下見をした際に、残雪の上に残されたエゾアカガエルの産卵前の卵のうが見つかった。卵のうは、残雪上に3卵、水中からも3卵発見された。何者かによって抱卵したメスカエルが捕食された際に、食べ残した残渣のようであるが、捕食者は不明である。
 2012年春、エゾサンショウウオとエゾアカガエルの捕食者を確認するために、赤外線センサーによる自動撮影カメラによる調査を開始した。調査の結果、映像記録によるアライグマの両生類の捕食状況があきらかになった。捕食の際、エゾサンショウウオに関しては、両手を器用につかって少しずつ食いちぎるように時間をかけて食い、最後に尾部を残した。それに対し、エゾアカガエルの方は、頭から丸のみして食う場面が記録された。
 アライグマは水中に手を突っ込んで、餌となる生き物を手探りで探して捕食することが明らかになった。他の捕食者が真似できない水中に隠れている両生類の手探りによる探索・捕獲手法ができるため、野幌森林公園のような孤立林では、アライグマによる捕食が個体群へ及ぼす影響が心配される。


洞爺湖における特定外来生物ウチダザリガニの効果的な防除体制の設立を目指して

相澤あゆみ(酪農学園大学野生動物保護管理学研究室),
室田欣弘(UWクリーンレイク洞爺湖),
三松靖志(壮瞥町:洞爺湖生物多様性協議会事務局),
鈴木清隆(洞爺湖町),阿部隆一(自然公園財団昭和新山支部),
戸崎良美(公財日本生態系協会),
吉田剛司(酪農学園大学野生動物保護管理学研究室)

1.はじめに
 特定外来生物ウチダザリガニは,北米原産の冷水性のザリガニで,全長15cm程度に達する大型種である.北海道の各地でも定着が確認されており,捕食や競合による様々な生態系への悪影響を及ぼすことが深刻な問題となっている.洞爺湖では2005年にウチダザリガニの生息が確認された.本発表では2005~2012年度のウチダザリガニの捕獲データをまとめ,これまでのウチダザリガニ防除の経緯と今後の課題について考察する.

2.防除体制
 洞爺湖では2005年に防除活動が始まった.2008年から洞爺湖町,壮瞥町,関係団体が構成メンバーである「洞爺湖生物多様性保全協議会」が発足し,地域と酪農学園大学が連携したモニタリングを実施している.2009年からは壮瞥町が,2010年からは洞爺湖町も緊急雇用創出推進事業を採用して防除活動を実施しており,2010年以降は全体の90%以上を緊急雇用創出推進事業によって捕獲した.また,地域住民への環境教育の実践やボランティアダイバーの受け入れも積極的に実施している.

3.考察
 2010年には全道のウチダザリガニ捕獲数の約65%を洞爺湖での駆除が占め,実績をあげた.2011年,2012年と捕獲数が減少しているが,捕獲個体が小型化しているためカゴ罠での捕獲が困難になっていることや,カゴ罠の設置数の減少による影響だと考えられる.また緊急雇用創出推進事業は新たに人員が毎年採用されるため,捕獲に慣れた作業者が継続して捕獲を実施できないデメリットがある.

4.今後の課題
 現在の捕獲体制は継続して実施できるものではなく緊急雇用創出推進事業での対応には限界がある.今後は小型化した個体の効率的な捕獲手法の検討や,国と道,さらに市町村が連携し継続できる捕獲体制づくりが課題となる.また2013年からはウチダザリガニを外来生物対策に関する教材とする修学旅行生の受け入れも計画されており,観光地としての洞爺湖で普及啓発活動の手法も検討していく必要がある.


旭川市近郊でみられる国内外来種アズマヒキガエルの分布状況と防除活動の取り組み

斎藤和範(旭川大学地域研)・青田貴之(旭川市)・八谷和彦(道拓殖短大)・
中川裕樹(道拓殖短大)・ざりがに探偵団ビッキーズ(鷹栖町)

 2007~2012年にかけて、旭川市神居古潭から石狩川上流方向の旭川市街地、下流方向の深川市・妹背牛町・秩父別町・滝川市、砂川市、江別市まで、内大部川上流方向の芦別市まで、春~初冬にかけて広域分布調査を行った。またこれら範囲で4月末~5月において産卵池調査を行った。
 防除活動は、旭川市富沢・台場東・神居地区の産卵池において(各地区1箇所づつ)、毎年5月から6月始めに、毎日日没後2~3時間程度たも網及び徒手によって成体及び卵塊を駆除、夏~秋には数日づつ、日没後2時間程度、富沢地区の産卵池周辺及びカムイの杜公園において、亜成体・若齢個体を駆除を行った。
 分布は、初めて斎藤らによって報告された1995年当時と比べ分布は拡大し、調査地全域および札幌市や石狩市で確認、産卵池もこれら地域で多数確認された。上流域への分布拡大は、人為的な成体・卵塊の運搬・放逐や自然分散が考えられるが拡大速度は遅い。下流域へは石狩川による流下が確認され、急速に分布が拡大。
 また、農業用幹線水路により、北空知頭首工から空知幹線・深川幹線、神竜頭首工から北幹線などで、滝川市・秩父別町・妹背牛町の水田地帯に分布が急速に拡大。防除は旭川市富沢・台場東・神居・神居古潭で行っており、産卵期に産卵池周辺に行うのが効果的。分布拡大防止には、産卵池の消失、高密度域における社会教育や普及啓発看板などによる周知だけでなく、学校教育における外来種学習が緊急に必要である。


滝を遡上するアメマスの生態

小宮山英重(野生鮭研究所)

 2010年から2012年までの3年間、北海道東部のオホーツク海にそそぐ斜里川の上流域と中流域の境付近に位置する落差約2.5mの滝(通称:さくらの滝)の右岸から、その滝の上流へ遡上しようと滝に向かって空中を飛翔するサケ科魚類の行動を観察した。当滝の形状は、流下する川水が滝の段差の部分で、川底を伝って流下する部分はなく、すべて空中を飛翔して滝つぼに落下するという特徴を持っている。調査時期は、5月~9月の間で、調査時間は、目視可能な昼間の9:00~19:00の間に適宜実施した。滝周辺はヒグマの生活圏であるため夜間は調査を行わなかった。滝に向かって空中を飛翔する魚類をデジタルビデオカメラおよびデジタルスチルカメラで撮影し、得られた映像から魚種の判定と各種ごとの個体識別、および個体別飛翔コースの判定をおこなった。また、滝の遡上に成功した魚種別個体数は主に目視で、補助的に動画映像で計数した。遡上に成功した個体のスチル写真の撮影に成功した場合は、過去のスチル写真記録からその個体の遡上努力回数並びにその日数を計数した。
 飛翔を記録できた魚種は、個体数の多い順にサクラマス、アメマス、オショロコマの3種だった。3種とも降海型および河川残留型の二型が飛翔していた。滝の遡上に成功した魚種は、魚体の大きなサクラマス降海型、アメマス降海型の2種のみであった。
 今回はそのうち、アメマスの行動特性について、2012年の結果を中心にして報告する。アメマスの飛翔期間は6月中旬~9月中旬まで記録された。1日当たりの飛翔個体数および旬別滝遡上成功数は、ともにアメマスの産卵が始まる30~40日前にあたる8月中旬が最も多かった。個体識別は、空中を飛翔する個体のスチル写真を分析し、体側の斑紋(白斑)のサイズ、斑紋の配列パターン、傷、体各部の特徴的な形などで判定した。同一個体の1日当たり飛翔回数の最多は19回(/8時間)を、最多飛翔日数は55日(初飛翔記録日2012年6月19日~遡上成功日8月12日)を記録した。記録年別飛翔個体数は、2010年18個体、2011年15個体、2012年は17個体であった。複数年記録できた個体は7個体で、内訳は飛翔3年目4個体、2年目3個体であった。また、各個体の飛翔コースは、複数年および単年記録個体ともに川幅約24mの中から、個体ごとに独特のコースを選定していた。様々なコースをランダムに飛翔する個体は観察できなかった。以上の結果からアメマスは数メートル単位の精度で位置を記憶する能力があると推定された。
 当滝で魚類の飛翔が観察できた水温条件は、9.2℃以上であった。アメマスの場合、飛翔が観察できた最低水温は、12.3℃であった。また、2012年に遡上成功した6個体の成功時の水温は、平均16.1℃±1.44(範囲14.3℃~18.6℃)であった(1012年の調査期間中の最高水温は18.6℃)。また、遡上が成功する確率の高い時間帯は、1日の最高水温を記録する14時前後から夕方までの間であった。当河川のアメマスにとって約2.5mの落差は、運動能力が高まる高水温のときに遡上が可能となる、移動が困難な障壁と考えられた。


ジョウビタキの日本列島への進出

川辺百樹

 昨年6月,上川町でジョウビタキPhoenicurus auroreus auroreusの繁殖が確認された(北海道新聞2012年6月8日付).これは日本列島での4例目の繁殖記録であった.なぜ,ジョウビタキは日本列島で繁殖するようになったのだろうか.今後,日本列島において繁殖分布域を拡大するのだろうか.

ジョウビタキはどんな鳥か
 ジョウビタキは,ユーラシア大陸の東部,バイカル湖からアムール川河口,沿海州,中国東北区,朝鮮半島,中国南西部に至る地域で繁殖し,本州以南の日本列島や中国南部で越冬する.本州以南の雪の少ない地域ではお馴染みの冬鳥である.全長約14.5cmと,スズメとほぼ同じサイズだが,跗蹠が長く,体型はノビタキと類似する.長い跗蹠は地上での活動に適応しているとみられる.ジョウビタキ属は林地や岩のあるところを生息地とする昆虫食の小鳥で,ユーラシア大陸に10種が生息する(残り1種が北アフリカに生息).

日本列島での繁殖例
 糠平:1983年に繁殖.巣は古い建物の内部の棚板の上につくられ,親鳥は煙突の開口部から出入りした.5羽のヒナが巣立った.白雲岳:1999年に山頂の岩塊堆積地の岩と岩の空隙に餌を運ぶのが観察された.長野県富士見町:2010年に別荘地の林で巣立ちヒナへの給餌が観察された.上川町:2012年に家屋の屋根裏で営巣.

日本列島進出の背景
 ジョウビタキの本来の生息地は,亜高山の疎林,河畔の茂み,低木林であったと考えられる(Dement'ev & Gladkov et al 1954,del Hoyo 2005)が,現在は人家周辺でも繁殖している(パノフ1973,Knystautas1993,ナザロフ2004).朝鮮半島では,大都市でも繁殖する(del Hoyo 2005)が,40年前には山地の森林の鳥とされていた(Gore and Pyong-Oh1971).つまり朝鮮半島では人為環境に進出したのはそれほど昔のことではないようである.人為環境への進出を果たしたジョウビタキは大陸で生息密度を高め,非定着個体(若い個体)を繁殖域の周辺に押し出していると推測される.1983年以降の日本列島での繁殖個体の出現は,本種の大陸における繁殖分布拡大の余波と見ることができるだろう.

今後の動向
 糠平では1983年に繁殖したが,その前年に独身雄が滞在し囀り続けていた.また繁殖翌年の1984年には繁殖に至らなかったが,ペアーで滞在した.1994年と2003年に雄が繁殖期に滞在し,2010年に雄が繁殖期に出現した.上川町で繁殖した2012年には糠平でも4月中旬から5月下旬まで雄1羽が滞在し囀り続けた.このようにジョウビタキのパイオニア個体が30年ほど前から途切れ途切れながらも日本列島に出現していたとみられる.本種の大陸での個体密度がさら高まれば,日本列島への進出個体も増加し,日本列島での繁殖分布域の拡大が実現することになるだろう.


札幌圏における実物教育ネットワークの展開 ~CISEネットワークについて~

大原昌宏・菊田 融(北海道大学総合博物館)

 北海道大学では、2012年7月より、JST事業「科学系博物館・図書館の連携による実物科学教育の推進〜CISE(Community for Intermediation of Science Education)ネットの構築〜」(JST科学技術コミュニケーション推進事業「ネットワーク形成地域型」)を実施している。本事業は、北大総合博物館がネットワークの中心となり(提案・運営機関)、札幌周辺の4自治体(札幌市,小樽市,石狩市,北広島市)と連携し(連携自治体)、各自治体にある博物館・科学館・動物園・水族館などの教育施設が参加することで(参加機関)、地域住民への実物科学教育を進めるネットワーク(CISEネット)を構築する事業。

 CISEネットでは、「実物科学教育」のための人材養成・教材開発を、参加機関と連携しながら推進していく予定である。人材養成は、今まで北大総合博物館が進めてきたパラタクソノミスト養成講座を地域博物館などに広げることで、地域における実物科学教育に携わる人材の養成を進める。教材開発は、地域の特色を大切にしながら、参加機関が協働し多面的な実物科学教育を行う「テーリング・システム教育」を実施する。具体的には、動物園のクマの前で、博物館のヒグマ骨格標本を使って解説をする、科学館の学芸員が水族館のペンギンの前で泳ぎ方の物理法則を解説するなど、大学の研究者や地域博物館の学芸員や飼育員・司書などの職員が協同しながら、教材コンテンツを開発する。2012年度は「ヒグマ」、「サケ」、「恐竜」、「セミ」などの教材を開発するワークキンググループが教材開発を進めている。

 CISEネットが構築されることによって、従来連携が弱かった博物館・科学館・動物園・水族館・図書館・公民館などの教育施設の専門家の交流が始まった。地域の自然環境を反映させた「実物科学教育」が地域住民に提供される。開発された教材は、地域の施設を通じて社会教育の現場で活用されるだけでなく、学校教育の現場でも活用が期待される予定である。今まで個々の施設だけ進められてきた個別の事業が、地域教育施設間で共有可能となり、地域教育施設の活性化につながることが、CISEネットワークに期待されている。


ヒグマを教材とした教育実践 ~日本クマネットワーク北海道地区の事例など~

植木玲一(北海道札幌啓成高等学校)

 日本クマネットワーク(JBN)北海道地区普及啓発事業係(北海道大学獣医学部坪田教授代表,筆者を含め5名のメンバー)では,2008~09年に,現存する日本最大の野生の陸生動物であるヒグマ(Ursus arctos)を教材化し,環境教育プログラムを作成した(地球環境基金からの支援による.知床財団の先行実践を参考).プログラムの目的は,五感を用いた教材により,ヒグマを科学的に理解させ,ヒグマとの共生の意識を高めることとした.以下に,作成した主な教材を挙げる.①ヒグマなめし皮(オス亜成獣・オス成獣)②ヒグマ前後足剥製③ヒグマ頭骨④他の肉食獣頭骨⑤草食獣頭骨⑥ヒグマフン各種⑦新生子ぬいぐるみ⑧ヒグマの歯型つき空き缶⑨札幌周辺地図

 また教材を利用する授業(トランクレッスンと呼ぶ)プログラム指導案を作成し,ティーチャーズガイドとした.プログラム実践は,2009年に計13回,一般の方など344名に,札幌市立円山動物園を中心として行った.1回の実践は30分程度で,事前事後にアンケート調査を行った.アンケートから,受講者は,ヒグマは頭がいいというイメージを持ち共感するようになったこと,ヒグマに対する科学的な理解が増したこと,ヒグマとの共生の意識が高くなったことなどが明らかになった.これら教材とティーチャーズガイドをトランクに詰め無料で貸し出しているので,自然史研究会の方にご活用いただけたら幸いである.

 他,野外でのヒグマ教育の可能性について論じる.